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6話 久遠 湊

last update Date de publication: 2026-01-26 18:06:39
あの時から五年の月日が流れていた。

燈が俺に離婚を切り出し、姿を消したあの日から五年。

俺の人生は完璧そのものだった。他人の目から見たら教科書通りの“成功”そのものに映るだろうくらいには。

聖カトリーナ国際医療センターで最年少で外科部長となり、学術的成果も目覚ましく、名声は日に日に高まり、メディアからは「脳外科医の頂点」とまで言われていた……いや、今もそうだ。

でもその裏には孤独に耐える日々が続いている。

俺の隣には今、誰も居ない。

五年前のあの日、一緒に妊婦検診に行ってくれと頼んで来た愛沢くるみ。俺の子供を流産し、病院に担ぎ込まれた俺の妻。俺はそんな妻からの連絡を受けた時、自分の望みが成就したと思った。そして燈と友達であったくるみの妊婦検診に付き合う事で、燈に自分自身が犯した罪と向き合わせ、その罰を与えていると思い込んでいた。俺は馬鹿な事に本気でそう思っていたのだ。

聖カトリーナ国際医療センターでは外科部長として忙しい日々を過ごしてはいるが、家に帰れば孤独そのものだった。

ベッドルームの化粧台には燈の使いかけの香水瓶。クローゼットには彼女が置いて行った服やカバン。彼女が使っていた書斎
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Commentaires (1)
goodnovel comment avatar
awayfromhome-takako
あんた本当に医者です? 緊急救命で運ばれてきた患者が助からなかったからって、医療ミスもなかったのに、担当した医者である妻のせいにすんかんて。 いくら妻をよく思ってなかったとはいえ、冷静な判断もできないなら医師免許返還しろや! 執刀してもらうと殺されそう
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    「この透かしは……」遼大が頭上に掲げた紙を凝視している。「そこに入っているのは固有の文字列、ミラトリウム製薬が個別で持っている、それぞれの識別番号になる」賀神さんがそう言う。「その書面はミラトリウム製薬からの正式なものだ」賀神さんはそう言って遼大に渡した数枚の書類に手を伸ばし、透かしの部分を見比べるよう、促す。「確かに個別の文字列があるな」遼大がそう言いながら個別の文字列を検索にかける。「これがヒントになる?」私がそう聞くと賀神さんが苦笑する。「おそらくは。千堂弘の署名があるという事は、当の本人が少なくともその時、その場所に居た、という事と同義です。つまりは千堂弘がその場所で活動をしていたという事。ラボ一つ一つに千堂弘個人のオフィスがある事を考慮に入れても、それなりに絞る事は可能かと」賀神さんがそう言った後、遼大がタブレットの画面を見ながら言う。「ヒットした」遼大が私と賀神さんにタブレットを見せてくれる。いくつかの施設の名前がある。「これをさっきの地図上に示したものと合わせて……」遼大がそう言いながらタブレットを操作する。さっき絞り込んだ数か所と、今回の透かしの文字列に当てはまる施設が合致していく。「これでもまだ候補がいくつかありますね」賀神さんがそう言う。「あぁ、だが、助けにはなった。いくつかの候補が除外出来たんだからな」遼大がそう言って賀神さんを労う。地図上に示されているプラントの数々。トラックの運搬経路。透かしの文字列による、千堂弘の個人オフィスの絞り込み。EMSOと同等か、それ以上の設備のもの、という推理。ふと、思い付く。「ねぇ、この施設の中で、オンタイムで電力供給量が高い場所を探すのはどう?」私のその一言で遼大も賀神さんも私を見る。「……そうか。愛沢くるみを保有しているなら、今、まさに実験が行われているだろうし、そうであるなら電力の供給量も多い筈……」遼大はそう言ってタブレットを操作する。◇◇◇無力化……無力化……無力化……!!私はツカツカと歩きながら忌々しい思いを噛み潰していた。溶媒を載せた運搬車が事故、一方で愛沢くるみから抽出した変異レセプタータンパクがどうしても言う事を聞かず、私がそれまで開発に膨大な時間をかけて来たレプリトール系の薬品は全て、愛沢くるみの変異レセプタータンパクで無力

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    「運転手は……」遼大がそう言いながらタブレットを操作する。「ミラトリウム製薬のトラック運転手で、特に変わったところは無さそうだな」遼大と一緒にタブレットを見ていた私も、書かれている調査を読みながら頷く。「そうね、特に変わったところは無さそうだわ」運転手が何かに関わっていたという事実は今のところ、見えて来ない。私が千堂弘なら?運転手に何かを話す事などしないだろう。千堂弘ほどのマッドサイエンティストなら尚更だ。遼大が溜息をつく。「運転手がベイサイドパイロットプラントの方角から来ているなら、あの辺一帯の捜索をしなければならないが……」そう言いながら遼大がタブレットに地図を表示させる。「ラボが隠されていそうなプラント自体の数が多すぎるな」地図に表示されているプラントの数はかなり多い。「一条さんが言っていたように、あれだけの設備を用意しなければならない事を考慮に入れても、数はまだまだね」私がそう言うと遼大が溜息をつく。「手詰まり、か」そう言う遼大と共に私は地図を見つめる。(何か、何か無いのかしら……)今、この瞬間も愛沢くるみは千堂弘の魔の手にかかっているかもしれない。でもそれも自業自得と言えばそうだとも言える。それでも。私は愛沢くるみを失う訳にはいかない。私の名誉の事なんかどうでも良い。私の評判が落ちた、あの医療過誤の事も、今ではもうどうでも良かった。ただ颯太にした事だけは許せなかった。そして私の子供を失わせた事も償わせなければ。そう思っていると、遼大のスマホが鳴る。遼大が通話のボタンをタップする。「……分かった、送ってくれ」遼大がそう言って通話を切り、私を見て微笑む。「何とかなりそうだ」そう言われて私は聞く。「何が、どうにかなりそうなの?」そう聞くと遼大が言う。「トラックの運搬経路を洗ったんだ。今までの分も含めてね」遼大はそう言いながら送られて来たファイルを開き、タブレットに表示させる。「これ……」私がそう呟くように言うと、遼大が頷く。「あれだけ大きいトラックだからな、Nシステムを抜けられる訳が無い」遼大にそう言われて私も頷く。「それはそうね」遼大はタブレットにそのファイルから取り出した経路と、地図を重ねる。「あのトラックが普段からミラトリウム製薬と取引があると仮定して」遼大はそう言いながら

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  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   301話 動く影

    早速、私と遼大は波多野優斗から聞いたミラトリウムについて調べる事にした。湊にも情報を共有する。私と遼大の共有オフィスで調べ物をしていると、扉がノックされて入って来たのは賀神さんだった。「賀神」遼大がそう言って賀神さんを歓迎する。「昨夜あった事をついさっき、聞いたんだ」そう言いながらオフィスに入って来る。「情報は狭い範囲でしか共有されていない。緘口令を敷いているからな」遼大がそう言う。「それで、何か分かったか?」賀神さんが遼大にそう聞く。「愛沢くるみが連れ去られた昨夜に関しては、今まだ調べている最中なんだ。だが」遼大がそこで言葉を区切る。「黒幕は千堂だ」そう言うと賀神さんが頷く。「そうだろうな。それ以外に考えられない」私は賀神さんに聞く。「賀神さんはミラトリウム製薬って知ってる?」そう聞くと賀神さんが私を見る。「ミラトリウム製薬だったら知っています。国内ではかなりのシェアを誇っている製薬会社ですよね」そう言われて私も頷く。「そうなの」そう言うと賀神さんが怪訝そうな顔をした次の瞬間には、事の展開が読めたのか、聞く。「まさか、ミラトリウム製薬が千堂……?」そう言われて遼大が少し笑う。「さすが、思考が早いな」遼大にそう言われて賀神さんが笑う。「私は知っての通り、国内の事情には疎い。だが製薬会社が絡んでいるなら、静香に聞くのも一つの手だ」賀神さんにそう言われて遼大が頷く。「それを頼もうと思っていたところだよ」賀神さんは微笑んで頷く。「すぐに聞いてみる」そう言いながら賀神さんが胸元からスマホを出す。「それで、御堂院静香とは?」遼大が何かのついでだと言うように、そう聞く。賀神さんが少し吹き出す。「問題無い。御堂院家の当主であるお父様からも謝罪を受けた」つい先日の視察の事を思い出す。かなりプライドの高そうなご当主だった気がする。「あのご当主が謝罪をしたのか」遼大も同意見だったようで、賀神さんにそう言う。「あぁ。これは私の予測だが、おそらくは東都メディカルを私に渡すつもりなんだろう。でなければ謝罪などする筈無いからな」賀神さんがそう言う。御堂院静香と結婚という事になれば、自然とそう言う流れになるだろう事は予測が出来た。そして賀神さんならそれが当たり前に出来てしまうだろう事も分かっている。「実力でもぎ取

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